「失ったものとの再会への希望」
11曲が紡ぐ儚さと壮大さが同居した美しいサウンドスケープ。polly初の海外マスタリング作品。
A.O.T.O. (Music Video)
窓辺 (Music Video)
愛している (Music Video)
Liner Notes
pollyの進化と成長と変貌に震える。素晴らしいニュー・アルバムの登場である。前作『Four For Fourteen』以来1年ぶりの3作目。だがたった1年という短い時間は、彼らの大いなる覚醒を促すには十分だった。
フロントマンでありソングライターである越雲龍馬に本作の構想が生まれたのは2021年1月ごろ。1年に1枚フル・アルバムをリリースしていきたいという考えはその時からあったという。彼の中でどうしても今すぐ、吐き出して、形にして、表現しなくてはならないものがあったのだろう。デモ段階で34曲もの楽曲があり、そこから11曲に絞り込んだ。
本作の構想の直接のきっかけは、越雲がふとしたきっかけで見た、アイスランドの風景を写した写真だった。その美しさに魅せられ、それに見合うような音像を目指した。具体的には愛犬を失いそうになった時の頭に鳴っていたノイズがこのアルバムの軸になっている。
pollyの音源は2018年以降、つまり『Clean Clean Clean』以降すべて、越雲が全パートのアレンジ・歌を担当している。今回も同様だが、今回は『Clean Clean Clean』とは逆の発想で、メロディを軸にいかに理想とするサウンドを合わせるかという課題を設けたという。
本作を耳にして一番驚かされるのは、サウンド上の変化だ。とはいえ今作で彼らの音楽の根本が変わったわけではなく、これまでのpollyの繊細さ、美しさ、いびつさのようなものに加えて力強さ、開かれたポップさのようなものが感じられるようになった。唱法も曲調もバラエティに富み、アレンジも音像もダイナミックでメリハリが効いていて、より多くの聴き手に向けてアピールできるような内容になっている。越雲はこの変化が自覚的なものであることを認め、「心の底からpollyの音楽を多くの人に聴いてもらいたいと強く思うようになったから」とコメントしている。かつて私は『Clean Clean Clean』について「繊細で、深く、壊れそうに透明なアルバムである。アーティストの表現の意思が混じりけなく結晶化したような、そんな美しい作品だ」と書いたことがある。今作ではそうして作り上げた珠玉のような作品を聴き手に向けてより開かれたものにしていこうという明確な意思が見てとれる。越雲は「今、音数が少ない音楽が流行っていますが、僕自身それにときめかないので、多い音数を無駄なく歌に合わせるかという裏テーマもあり、そこは特にこだわりました」と語っているが、自らの信じる音を突き詰め、かつ多くの人たちにアピールするという命題のため、エンジニアを代える必要性が出てきた。
本作のレコーディング/ミックス・エンジニアは福島由也。Ivy to Fraudulent Gameのメンバーであり、エンジニアとしても活動する福島はpollyと同世代で、音楽志向も共通点がある。さらに驚いたのはマスタリングをNYの名門スターリング・サウンドのグレッグ・カルビとスティーヴ・ファローンが手がけていることだ。ジョン・レノン、ボブ・ディラン、デヴィッド・ボウイから、最近ではテーム・インパラ、ザ・ナショナル、ボン・イヴェールなどを手がけるグレッグ、テイラー・スウィフトやウォー・オン・ドラッグスなどを手がけたスティーヴとも、業界を代表する大物エンジニアであるが、越雲が好きなアルバムの多くをふたりが手がけているのが決め手となった。作業にあたってはスケール感やダイナミクスを失わないようにお願いして、あとはすべてお任せだったが、思い描いていた音が返ってきた、という。
本作のタイトルは『祈り』である。そこには「大切なものが永く続きますように。終わってしまった後、いつかまた出会えるように」という思いが込められている。
越雲は2018年に親友を亡くし、今年になって祖母を亡くした。2015年に幼い頃から共に過ごしてきた愛犬を亡くしてから、「死」というものが身近に感じられるようになっていた。さらにコロナ禍という前代未聞の事態の中での制作ということもあって、「失うこと」への恐れをよりリアルに感じるようになった。だからこそ今、身近にある大事なものをもっと大切にしていきたいという思いが募ったという。若くしてこうした死生観を持つことが、本作の制作に大きな影響を落としたことは想像に難くない。本作ではそうして失ってしまったさまざまなものへの愛や執着、別れや喪失の悲しみや空虚感が歌われている。それはpollyの表現に常に漂っていたものだが、今作は最終的にどこか希望を感じさせるような内容になっている。別の道を歩んでも、いつかまた出逢える。その淡く瞬く光が本作の最大の特徴であり、美点でもあると思うのだ。それが聴き手の心を浄化し、勇気づける。
その結果本作では「自分のやりたい音楽、書きたい言葉をちゃんとアウトプットできた」と越雲は言う。「今作がpollyのスタンダードになるような作品だと思っています。僕個人としてはこれが遺作になっても悔いはないです」とまで言い切る自信作が、『Pray Pray Pray』である。
もちろんどんなアーティストであれ、渾身の作品を作りあげたときは「これが最後でも構わない」という思いだろう。だがそれ以上に本作に賭ける越雲の、pollyの気迫には圧倒される。これはバンドにとって決定的なメルクマールとなる傑作だ。かつてなくポップで、力強く、深い新生pollyサウンドは私たちの前で申し分なく開かれ、そして美しく鳴っている。
小野島大 Dai Onojima
Interview
Live
polly Release Tour「Pray Pray Pray」
2021/12/11(土) 千葉LOOK
2021/12/18(土) 札幌SOUND CRUE
2022/01/07(金) 広島4.14
2022/01/08(土) 福岡OP's
2022/01/10(月祝) 京都GROWLY
2022/01/28(金) 名古屋CLUB UPSET
2022/01/29(土) 大阪SOCORE FACTORY
TOUR FINAL ONEMAN
2022/02/06(日) 渋谷WWW
− Streaming+配信 −
2022/03/05(土)21:30〜03/11(金)23:59
2/6ツアーファイナルのライブ映像を配信
視聴チケット2,000円
特典付き視聴チケット3,500円
※特典:ライブ音源CD(本公演の演奏曲を収録)
▼視聴チケット受付URL▼
− Live Report −
polly『Pray Pray Pray』ツアーファイナル 最高到達点の景色、その先へ